CULTURESeptember 5, 2022

【CEO×COOインタビュー】新しい産業が生まれ続ける社会のインフラへ、次なる一手は

2022年2月、スローガンは東証マザーズに上場(現在はグロース市場に移行)しました。新たなフェーズに突入したスローガンの代表とCOOに「上場したけど業績ってどうなの?」「今後の事業展開は?」「スローガンに入れば成長できるの?」などの気になるトピックについて聞いてみました。

「新しい産業が生まれ続ける社会」への第一歩

今年で創業18年目を迎えますが、どのような創業経緯だったのでしょうか

伊藤:創業当時から、米国西海岸をはじめとする海外では若者の起業やスタートアップへの入社という選択肢が当たり前に存在し、若い才能を中心に新たな産業が次々と興る兆しがありました。一方日本はというと、年功序列や終身雇用などの前時代的な制度が色濃く残り、若者の才能が十分に発揮されにくい社会構造のままでした。これらの現状を目の当たりにする中で、「新産業を創出する」には「人の持つ可能性を引き出すこと」が重要で、それには「才能の配置」が大きく影響するのではないかという仮説にたどり着きました。そうして「スタートアップやベンチャー企業を中心とした新しい産業に、若い人材が挑戦する社会を作りたい」という想いから立ち上げたのがスローガンです。

創業から10年ほどは新卒領域に強くこだわって取り組んできました。創業当時、周囲が「ここ(スタートアップ×新卒採用)は難しいよね」「マーケットないよね」と切り捨てていた部分を粘り強くやり続けられたからこそ今のポジションがあると思っています。

なぜ新卒領域から取り組んだのでしょうか

伊藤:創業当時の日本社会では「新卒ならまずは大企業に入った方が良い」という同調圧力が非常に強く、固定的な労働環境に多くの人材が流れ込んでいました。ならば大企業に入って活躍している優秀な人材を新産業分野に移動させれば良いのではないかと思われますが、当時の労働市場は硬直的で、一度入社するとなかなか辞めない傾向がありました。なのでまずは労働市場への入り口のタイミングで新産業分野、つまりベンチャー・スタートアップに適性のある人に振り向いてもらうことで労働市場全体に健全な流動性が生まれる、という仮説を元に新卒領域から取り組むことにしたのです。

スローガンの事業を説明すると「ニッチな所見つけたね」というふうに言われることがよくあります。でもそれは結果論というか、スナップショットとしては確かにそういう一面もあるでしょうが、「ビジネスチャンスだ」「誰もやってないニッチな市場だからやろう」という発想ではありません。冒頭でも話したように、新しい産業やベンチャー・スタートアップへの人材供給が社会的にも意義があり、社会を良い方向に変える上でアップトレンドにしていくべきだと思っています。そしてそれを自分達がやる上でさまざまなアプローチがある中から人材紹介やメディアという手段をとっているに過ぎません。現時点のサービスモデルを切り取ると「ニッチな就職サービス」と捉えられることもありますが、やろうとしているのはあくまで新しい産業が生まれ続ける社会のインフラを作るという大きなストーリーの序章の部分です。

新卒事業はミッションとかなりダイレクトに紐づいた取り組みなのですね。

仁平:まさにそれがスローガンの特徴です。入社のご支援をした方が若くして事業責任者やボードメンバーになったり、その後起業したりといった事例に触れると、ミッションを体現していけていることを実感します。ただの瞬間的なマッチングだけでなく、そのマッチングによって生まれる人の可能性や新産業に向き合っている以上、ご支援から時間を経てそういったフィードバックを貰えるのはメンバーの大きなやりがいになっています。

市場創造に10年。事業拡張、経営改革を経て「社会の公器」へ

創業当時は新卒領域にこだわりあえて事業を拡大してこなかったということでしょうか。

伊藤:はい。新産業領域×新卒採用という市場を創るところから始める必要があったので時間がかかったというのもありますが、当時は「社会的意義があることをやっているのだから、変に拡大してその意義が薄れてしまうくらいなら今のままで良い」とトレードオフで考えていました。そこからさまざまな経験を経て「せっかく意義のあることやってるならさらに大きくすれば良いんじゃないか」とトレードオンで考えられるようになったのが創業から10年くらい経ったタイミングだったのです。

事業拡大を意識してから上場に至るまで、どのような取り組みがあったのでしょうか

伊藤:ここ数年で外部資本を入れたり、経営チームを整えたり、事業も新卒領域にこだわりすぎるのではなく、中途領域やメディア、入社後フォローなどに拡張してきました。また組織が拡大・成長していく中で「権限委譲」というのが私にとってポイントでした。当初は全社戦略やビジョンが明確にはなくて、ミッションという遠くて抽象度の高いものだけで引っ張りながら権限委譲しようとしていました。事業責任者と「共創」していく経営スタイルになっていなかったのです。

そこでミッションと権限委譲の隙間を埋めていくため、COOの仁平を筆頭として経営システムの精度を高めていきました。そうして徐々に、外部に宣言した予算や目標をコントロールできる感覚を持てるようになってきたので、上場する(=社会の公器になる)準備ができたのではと思って2021年11月に上場となりました。

「新しい資本主義」への流れを追い風に、規模・領域ともに拡大フェーズへ

スローガンの今後の伸び代や事業展開についてはどう考えていますか?

伊藤:現在スローガンの取引先企業はスタートアップやベンチャーにフォーカスしていますが、その数は日本に1万社あると言われているうちのほんの数%です。一方で経団連がスタートアップの企業数を5年後までに10倍にすると提言していたり、政府が推し進める「新しい資本主義」の実現に向けた施策として、⼈的資本への投資拡⼤やスタートアップの増加が掲げられています。これらの社会動向を鑑みても、今後増加していくであろう人的資本への投資を重視するスタートアップ・ベンチャーへの価値提供だけでもかなり伸び代はあります。

仁平:現在の取引社数と一社あたりの取引金額から具体的な数値に落とし込むと、謙虚に見積もっても取引社数で5倍、取引金額で14倍、つまり約70倍の成長余地があると考えています。また、今後より広く市場をとっていくとこの数値はさらに大きくなっていくでしょう。

2023年2月期 第1四半期決算説明資料(https://ssl4.eir-parts.net/doc/9253/tdnet/2156848/00.pdf)より抜粋

現在、新卒事業がグループ全体の7割の売り上げを占めています。軸足は今後も新卒採用領域に置くのでしょうか。

伊藤:今後も新卒採用領域への注力を弱めることはありませんが、新卒領域以外の分野への拡大もさらに力を入れているところです。現在は新卒採用支援や中途採用支援、メディア、SaaS分野で事業を展開していますが、例えば入社後の人材育成やカルチャー浸透といった組織づくり、さらに企業が成長していけば必要となるであろう採用ブランディング・コーポレートブランディングといったサポート、場合によっては上場後のIR活動へのサポートなど、進出する領域はまだまだいくらでもあると考えています。2023年にはスタートアップ・ベンチャー企業の育成課題にSaaS型プロダクトでアプローチをする新規事業も開始予定です。

仁平:もっというと、そもそもミッションの性質自体が会社の成長余地を担保しているというのもポイントです。スローガンは、ミッションの言い換えとして「人にまつわる市場の歪みを解消する」ことを掲げています。人材のマッチングやキャリア教育・支援に閉じているわけではなく、人にまつわるあらゆる歪みを解消していこうとしています。市場の歪みは社会の変化と共に常に変わりゆくものです。そういう意味で、100年経っても追い求め続けるべき非常に奥行きのあるミッションだと思っています。

仕組みと抜擢で人間力を高める。人の可能性を引き出す組織へ

社会背景も相まって持続的な成長が見込めるフェーズなのですね。そうなるとやはり気になるのがその成長を担う人材の育成についてです。スローガンならではの仕掛けはあるのでしょうか。

伊藤:もちろんです。ミッションにも掲げている以上、人の可能性を引き出す組織づくりを自分達で実践することが一丁目一番地だと思っています。

仁平:まず前提として、ビジネスモデルをみると確かに形式は人材紹介モデルなのですが、その中身は新産業領域(ベンチャー・スタートアップ)と成長意欲や適性がある人たちとのマッチングです。それゆえ、新産業領域の企業様や活躍期待の高い候補者の方と対峙するにはキャリアやビジネスの高いリテラシーが求められ、彼らから信頼され対話すること自体かなり難度が高い構造にあります。言い換えると、今後社会がどうなっていくか、どういう領域が伸びるのか、自分自身もどういうところに身を置くべきかなどの知識やリテラシーが自ずと身につく見晴らしの良い環境であるといえます。これはスローガンのビジネスモデルが生み出した稀有な成長環境だと思っています。

スローガンのミッションや市場の歪みは広い概念で複雑性が高く、必然的に今後も事業を複数立ち上げていくことになります。ゆえに常にポジションが生まれ続けますし、積極的に抜擢し任せていく姿勢です。実際に、新卒6年目で新卒採用事業部長、7年目には執行役員になったメンバーや、新卒3年目や4年目で新規事業を立ち上げたメンバーもいます。新卒2年目、3年目の若手マネージャーも次々と生まれています。もちろん単に抜擢するだけでなく、事業責任者や経営人材育成の仕組みづくりにも経営チーム全体で今まさに取り組んでいるところです。

伊藤:また人の可能性を引き出すというときに、わかりやすいスキルや知識の獲得の他に、人間としての成長にもフォーカスしています。成人発達理論や思考の癖、無意識バイアスなどから起こる機会損失に着目し、対話を重ねることでメタ認知のレベルを上げて個々人やチームのパフォーマンスを高めるカルチャーづくりのためさまざまな施策を実施しています。特にほぼ全社員が毎週行なっている1on1や異動希望などを含めた3ヶ月に1度のキャリアアンケートなどは、他ではあまり聞かない仕組みなのかなと思います。

本流に流されず、自分が信じたものに飛び込む胆力があるか

スローガンではどういう方が成長し、活躍するのでしょうか

仁平:ここまでの話でスローガンの成長戦略や、市場価値を高める構造については少なからずお伝えできたのではと思います。でも本質的には、成長機会がありながらも社会的意義の高いミッションに想いや共感があるからこそ、成長や活躍が循環している会社だと考えています。ミッションのフレーズや理念の考え方に何らか共感やシンパシーを感じる方は、躊躇わずに飛び込んでもらうとおそらく非常に良いキャリアになるのではないでしょうか。

伊藤:誰しも、企業規模や事業領域への先入観、世の中的に良いと言われているものへの憧れなどさまざまな「囚われ」があるものです。しかしこれからは80代までキャリアを歩むと言われている時代だからこそ、現時点のメインストリームに迎合することなく、健全な懐疑心を持ち、自分の意志で、自分の信じたものを選択する人が増えて欲しいと願っています。スローガンでも、ミッションに共感し自分たちがつくりたい社会の実現に情熱を持ち続けられる人たちが多く活躍していると思います。

伊藤 豊代表取締役社長

東京大学文学部行動文化学科(心理学専攻)卒業後、2000年に日本アイ・ビー・エム株式会社に入社。システムエンジニアの経験の後、関連会社での新規事業企画・プロダクトマネジャーを経て、本社でのマーケティング業務に従事。2005年末にスローガン株式会社を設立、代表取締役に就任。著書に「Shapers 新産業をつくる思考法」(クロスメディア・パブリッシング)がある。2021年度より経済同友会第2期ノミネートメンバーに選出。

仁平 理斗取締役 執行役員COO

早稲田大学国際教養学部在学中の2008年より創業期のスローガン株式会社にインターンとして約1年半在籍、事業責任者を務めたのち、2010年、株式会社ディー・エヌ・エーに入社。DeNAとNTTドコモの合弁会社でのUGC事業立ち上げ、DeNA Seoulでの韓国事業立ち上げを経て、ゲーム事業部にて複数のゲームタイトルをプロデュース。2016年12月、スローガン株式会社に復帰。2017年に執行役員に就任、新卒採用支援事業の事業責任者を務める。2021年3月に取締役 執行役員COOに就任。